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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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完璧手技第4回 気管内挿管

今回の完璧手技はいよいよ!救命救急士や学生や新米研修医のあこがれの対象・気管内挿管です。皆さんも救急での実習や、ACLSの講義で、「気管内挿管用 モデル」のお人形さん相手に練習をしたことがあるでしょう。入りましたか?難しいですよね~アレ。ねじ子は先日久しぶりにお人形さんに挿管したら、見事、 4本ほど歯を折ってしまいました。ありゃ~実際の人間より難しい。だってシリコン製ですげぇ固いんだもん!口が開かない!首もなかなか後屈しない!視野が なかなか確保できない!しょうがない、力ずくでいくか!バキッ。あ、歯が折れた……というわけで、すげぇやりにくいです、アレ。実際の人間の方がずっと簡単です。

でもでも、そんなこと言われてもチャンスがなければ、本物の人間サマではとてもできませんね。そんなチャンスは、麻酔科や救急にローテーションしたり、た またま患者さんの急変時に居合わせてない限り、なかなかありません。機会に恵まれず、医者になっても気管内挿管ができない人は星の数ほどいます。医療が細 分化され専門医傾向がどんどん強くなっている昨今、それはそれで悪いことではないのかもしれません。しかし!皆さんはこれからのスーパーローテート時代を 生きぬいてゆくべきニュータイプです。将来何科に行くとしても!チャンスがあったらどんどん挿管しましょう。そうすれば、イザという時の急変に対応するクソ度胸もついてくるというものです。

どんな手技をやるにしても最も大事なのはまず!下準備。

挿管に必要な7つ道具はこれです。 他にも酸素や吸引、アンビューバック、そしてそんな急変時に最も大切なのは!人を呼ぶことです。万全の体制を整えてからモノにかかりましょう。

姿勢が大切!技術は二の次!!

挿管の極意は1。よく後屈すること、2。よく口を開くことにあります。声帯が見えさえすれば、そこにチューブをつっこむだけなのですから、実は点滴をとるよりも「簡単」なはずなのです。口から、声帯までの間に、一直線の道ができればバッチリです。

喉頭鏡は持ち上げる、けっしてこじらない

見えさえすれば、あとは入れるだけ

実際は、ものすごく簡単な人もいれば、気管支ファイバーでも使わなければ全然見えないし全然入らない、ものすご~く難しい人もいます。それはおいおい慣れ てゆくことにしましょう。あとは経験数をかせいでゆくのみ!失敗できるのも若いうちです。怖がらずに、機会があったらどんどんチャレンジしていきましょ う。

完璧手技第3回 縫合

先生が夜なべをして傷口縫ってくれた~♪

ねじ子の全然完璧じゃない完璧手技、今回のテーマは「縫合」です。いよいよ手技らしくなってきました。

「縫合」と一口に言っても、実に様々です。開腹した後に腹を閉じる、さけた腸を縫う、指切っちった痛いよー、それぞれ縫い方が違います。そんなのいちいち覚えていられないよね!全ての縫合術を覚えるのはわれわれひよっ子には不可能。われわれに必要なのは、とりあえずどれか一つをマスターすることです。あとはきっとそれの応用です。というわけで今回は、皆さんが当直デビューしたら必ず一度は巡り会う、簡単な皮膚縫合をやりましょう。最近はOSCIでやるところもあるようで、この間学生さんにやってもらったらマジ上手でねじ子びっくりしました。

おでこを転んでぶつけた、カッターで手首切った、自転車に引っかけたなど、皮膚の「ぱっかりわれたキズ」は、本当によく救急外来に来ます。そしてその日当 直の研修医が、おっかなびっくり縫合をしております。てへ。例え自分が皮膚科医や形成外科医じゃなくても!専門じゃなくても!です。キズが筋肉まで達して いたら整形外科のセンセイを呼んだ方が身のためですが、キズが浅かったら、その場にいる人間がちゃちゃとやってしまうのが夜の病院の現実で す。縫合が大雑把か小雑把か、下手くそか上手かは、患者さんにとってはかなりの大問題ですが、医療人にとっては『そこにいる人』が『とりあえずやらなけれ ばならない』のですな。悲しいかな。本当に「綺麗に」縫いたいとき(未婚女性の顔など)は、その場にいる一番上手いセンセイに頼むか、お近くの形成外科を 紹介しましょう。

用意するもの

大体どこの救急外来でもこんな縫合セットが用意してあります。「この漢字なんて読むの?もちはりき?」なーんて貴方は5月号を見てネ!詳しく載っているヨ!

糸の太さって…
(注意! 下の画像はねじ子の完璧手技連載当時のもので、糸の太さについて「1-0はゼロより細い」とありますがそれは間違いです。正しくは「1-0とゼロは同じ太さ」です。『ねじ子のヒミツ手技1st』や『平成医療手技図譜【手術編】』などでは訂正されています。)

綺麗にしましょう

消毒のお薬は「イソジン」が一般的。そう、あのうがい薬イソジンの消毒用です。色が茶色くて嫌~という方には、色々な透明の消毒液(オスバンだのヘ キザックだの)もありますのでそれを使いましょう。ちなみに!くれぐれもアルコール綿をキズには使わないように。めっちゃしみます。

ちなみに土砂が入っているときなどは生理食塩水で洗浄&歯ブラシでゴミ取りしないと、ゴミがキズに埋まって、入れ墨の如く色が残ってしまうので、気合いで全部取りましょう。

まずは局所麻酔を

針を何度も何度も刺す訳ですからとっても痛い。麻酔なしでやろうものなら痛くて患者さん跳ね上がってしまいます。かの有名な「1%キシロカイン」を刺しまくりましょう。

いよいよ縫合

麻酔が効いてきた頃にいよいよ縫合です。


器械結び

今回は持針器を用いた結び方を御紹介。「器械結び」です。針から糸を外さないで結ぶことができて、針や糸をケチりたいときなどに便利です。

ちなみに、多くの外科の先生が「糸結び」と言った時、それは「手結び」のことを指しています。腹腔内など、深い所などは機械だとがちゃがちゃして しまうので、糸を針から外して、手で結びます。というわけで外科医や産婦人科医や整形外科医は手結びが得意になり、逆に皮膚科医や形成外科医や眼科医は機 械結びが得意になるのですな。まぁどちらかができればとりあえずOKです。

手結びにはだいぶ慣れているけど機械結びがまったくできない貴方は「手結びは得意だけど機械結びは初めてで」と言い訳し、手結びの方法をド忘れしてしまった貴君は「機械結びにばかり慣れてしまって手結びを忘れてしまいました」とか言っておけばとりあえず格好よさげです。

前立ちで外科のオペ見学しているときなど、皮膚縫合になったらすかさず「皮膚縫合やらせてください!」とか言ってみましょう。運が良ければやらせてくれる はずです。ちなみに「さあようやっと皮膚縫合だ!出番が来た!俺にやらせてくれ!」・・・とか思ったとたんにステープラーが出てきて、ガチャガチャ留めら れちゃったりして。おじゃんなのネ。

他にもいろんな縫い方が。

もしももっと深かったら中縫いをします。

かなり大きく離れていて、強くテンションをかけて縫いたいときは、マットレス縫合をします。

ほか。

抜糸

某形成外科の先生などは抜糸に消毒はいらない!と高らかに宣言していたりもします。

完璧手技第2回 手術器具の名前

今回の特集は「手術器具の名前」です。

知っているようで知らない手術器具の名前。外科のBSLでなりたくもないのに清潔にさせられ、第5助手で手術を見ている時、「学生さん、ちょっとそこのクーパー取って」とか言われたことありませんか?「くーぱーってナニ?」っ て感じですよね。「クーパー細胞なら肝臓に…」などと馬鹿なことを考えてるうちに「はさみだよ、そこの曲がりのはさみ」とイライラした外科のセンセイに怒 られてしまいました。でもでも「え、曲がりってナニ?あぁ、先が曲がってるってことか!」…ってな感じですよね。手術器具の名前が詳しく書いてある教科書 はほとんどありません。そんな授業もありません。実はオペ室ナース用の本に秀逸な物があったりするのですが。多くの医者の卵達は、器具の名前すら知らない うちに医者になり、内科研修医になった者はそんな物をまったく知らずに一生を過ごし、外科研修医になった者は、必死で実地経験だけで覚えていったのです。

というわけで勉強することすらも難しい、手術器具の名前。使用頻度の高いものからねじ子流に紹介していきましょう。

①持針器(じしんき)

針を持つためのキカイ。お裁縫の針は手で持ちますが、病院の針はキカイで持ちます。二つタイプがあり、どっちが出てくるかは病院や環境やセンセイの趣味に よります。ねじ子は「でかくて持ちにくいの」と「小さくて持ちやすいの」と呼んでおりますが正しくは まちゅー と へがーる と言うそうです。知らな かった。

<持針器ふたつ>

ねじ子は女性らしく手が小さいのでまちゅーは苦手です。ていうかキライです。

②鑷子

せっしと読みます。要するにピンセットです。先端にかぎがついてるものを有鉤鑷子(ゆうこうせっし)、ついていない平らなものを無鉤鑷子(むこうせっし)と言います。まぁ先にカギのついたピンセットとついてないピンセットです。[※イラスト中「摂子」とありますが誤植で、正しくは「鑷子」です。禊さんありがとうございます]

<鑷子つまりピンセット>

③針と糸

針にすでに糸がくっついているタイプが最近の主流です。楽ちん。 単独の針に、糸をかちっとセットするタイプも、外科でよく使います。結ぶときは針をはずして手で結びます。

<角針と丸針> <糸なしの糸の付け方>

④剪刀

正式名称は せんとう と言うそうですが、そんな言葉を使ったことはほとんどありません。「はさみ」と言った方がわかりやすいですし、現実的です。 先の太さや全体の大きさによって、形成せんとうとかくーぱーとかめいよーとかめっつぇんとか、色んな呼び名があります。まぁとりあえず「はさみ」で「曲が り」と「直(ちょく)」がある、と思っていれば十分でしょう。

<いろんなはさみ>

⑤鉗子

要するに「洗濯バサミ」のような、「つかんで離さないために」あるのものです。その種類は星の数ほどあり、すべてを把握することは手術室ナースの彼氏にでもならない限り不可能です。ねじ子にも無理。よって代表的なモノだけ三つあげます。

<ゆうこう、むこう、モスキート>

それぞれに直と曲がりがあったりしてやってられません。難しいし覚えにくいので、「カギのついてるやつ」「ついてないやつ」「小さいのがモスキート」とだけイメージしておきましょう。それ以上は、外科好き以外にはとりあえずいらないでしょう。

⑥メス

外科医が「はじめます」と言ったのち、しぱーんと皮膚や皮下脂肪などを切るときに使います。いかにも手術!という感じですネ。なんちゃって医療ドラマでもよく使われるワンシーンです。実際は始めの切開以外には、あんまし使わないんですけど。

<メスにも二種類(覚えなくて結構)>

ちなみにもっとよく使うのは電気メス。略して電メスです。切るようのモードと凝固用のモードがあります。どう違うのかは良く知らないんだけど、切る 方が出力が強いらしい。火傷させて焦がすことによってボロッと取れる(切れる)仕組みなので、傷口はあんまり綺麗とは言えません。よって、目に見える表面 の皮膚を切るのに使うのはやめましょう。電メス・凝固用モードは止血用に頻用します。

<電気メスにも二種類。バイポーラとモノポーラ>

重要なのはここまでです。これ以降はオマケ。午後5時をすぎて働く気のない大学病院オペ室ナースが器械出しについてくれなかった時、学生が器械出しを頼まれることもあるでしょう。そんな時のために。

⑦鉤

こう、と言います。「整形外科は足持ち3年、鉤持ち8年」の鉤です。フックと言った方がわかりやすいかもしれません。要するに「ひっかけてひっぱ る」ハンガーの先のようなものだと思いましょう。何を引っかけて、何を引っ張るかによって、様々な名前が付いてます。これまた星の数ほどあります。手術の 数だけあると言っても過言ではありません。

<絵。メジャーどころの鉤>

※摂子(ピンセット)のところでも、鉗子(洗濯バサミ)のところでも有鉤、無鉤と出てきてよくわからん気分になるでしょう。それはその通りで、先端にフックがついてるから「有鉤」「無鉤」と言っているのです。 「鉤」はそれ全体がフックなのですな。

⑧開創器

文字通り、切開部を開きっぱなしにしておくためのキカイです。術野の確保は安全な手術のためにとても大切。学生が触ることも、研修医が触らせてもらえることもほとんどないでしょう。トホホ。

実際の病院では、「縫合セット」「乳房切除術セット」「開腹基本セット」など、その手術においてよく使われる器械がセットになって滅菌されています。最近 流行りの内視鏡手術や腸管の自動縫合器、皮膚のホチキスみたいなスキンステープラーなど、細かいものを挙げればキリがありません。とりあえず基本的なもの だけ覚えると、オペ室実習で放置されて何もやることがない時も、暇つぶしにチラチラと清潔看護師さんの出す器械を覗いて見てれば退屈しないで済む、かもし れません。くれぐれも触っちゃって不潔にはしないようにネ!烈火の如く怒られますから。