2023年 ねじ子の楽曲ランキング(後編)
2位 帰ってきたコーガ様戦 / ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム
『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』より。前作『ゼルダの伝説 ブレスオブワイルド』においてコーガ様は謎の大穴に落ちて行方不明になった。いわゆる「ギャグ空間」への退場で生死不明になったことが、まさか続編につながるとは思わなかった。あの穴が伏線だったとは。実は地下空間があったとは。そこでイーガ団が暗躍するとは。いやー、思ってもいなかったね。世界の広げ方がうまい。地図はそのままで、探索範囲を倍にすることができる。かしこい。地下は怖くて移動がたいへんだけど、探索も慣れれば楽しい。
そしてなんと言っても!この曲には!合いの手があるんだよ!!!!コール!コールだ!やったああああ!コールするぞ!コール大好き!私もイーガ団に入って「はっはい!はい!はい!」って叫びたい!私もイーガ団に入る!あの衣装どこに売ってる?買わせて!
実はイーガ団は、あの社会で馴染めなかったり街から追い出されたり捨てられた人間を救いあげて、元々の種族に拘らず組織に取り入れる「セーフティネット」の機能を持っている。江戸時代の浪人組織みたいなものだ。ただのならず者集団に見えるが、実は社会にとって必要悪な集団として描かれているのだ。街の外に出たら一晩で魔物に殺されてしまうあの世界で、拾ってもらえて、役割を与えられ、飯を食わせてもらえているのだから(バナナだけど)そりゃみんなコーガ様を好きになる。この曲のコールからは「コーガ様大好き!」という気持ちが伝わってくる。だから好き。
3位 フリザゲイラ戦 / ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム
こちらも『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』から、中ボス・フリザゲイラとの戦闘曲。風をつかさどる街・リトを支配するボスであり、吹き荒れる風を意識した楽曲だ。過去シリーズのリト族の曲のアレンジがふんだんに盛り込まれている。竜巻と猛吹雪が吹き荒れるなか、パラセールで飛び回りながらこの曲を聴く。圧倒的な浮遊感を感じる。空も飛べそうだ。後半戦になると転調して音階が上がるのもいい。テンション上がるね!
この曲を聴くためだけにフリザゲイラを倒しに行く。そのためにわざわざ地下にも行くくらい、この曲が好きだ。巨体なのに弱点さえ突けばリンゴ3つで倒せるところもいい。
ちなみに前作と共通の音楽の中では『モルドラジーク戦』が一番好きです。敵がダウンするとサビに入る展開が最高に盛り上がる(この動画の1:26)。
4位 ヒロガリズム / 「ひろがるスカイ!プリキュア」エンディング主題歌
『ひろがるスカイ!プリキュア』はとても面白かった。史上初のレギュラー男子プリキュアであるツバサくんと、史上初の成人プリキュアである18歳のあげはさんがよかった。
ツバサくんはプニバード族、つまり鳥である。女児アニメに必須なマスコット要因、かつプリキュアだ。体格は第二次性徴前の小学生低学年くらいで、知能は主人公達と同じ中学2年生くらい。この年齢設定も絶妙である。生々しくないし、フリフリの衣装も着こなすことができる。生足を出しても違和感がない。会話のレベルもあわせられる。見た目と精神年齢が少し離れている(体型は幼いが精神年齢は思春期)が、元々人間じゃないのでそれも無理なく受け入れやすい。
始まる前は「男子プリキュアのレギュラーってどうなん?大丈夫なの?」と少し不安であったが、何の問題もなかった。私の子どもの男子たちはツバサ君を受け入れ、共感していた。きちんとツバサくんに自らを重ねながら見ていた。
そうだ、私もずっと戦隊の女性戦士に自分を重ねていた。「大きくなったらああなりたい」と思ったり、「これはダメだ、あんな大人にはならないぞ」と思ったり、可愛さにキュンとしたり強さに憧れていた。物語の中に自分と同じ属性の登場人物が存在することは、子どもが物語の中で人生を疑似体験するために必要である。物語の中でいろいろな感情を疑似的に体験し、別れや恐怖も体験して、心の強度を強くする。それは子どもの脳が成長するのに必要不可欠な過程だ。ライダーでも戦隊でもプリキュアでもドラえもんでもクレヨンしんちゃんでも少年漫画でも少女漫画でも若草物語でも赤毛のアンでも偉い人の伝記でも、それは変わらない。
あげはさんが18歳の保育士さんで、ツバサくんを「少年」と呼んでかわいがっているのもよかった。それに対してツバサくんがむっとして「子ども扱いするな」とすねているのもいい。子どもっぽいとか、かわいいとか言われたくないところがいかにも思春期の少年でいい。生意気でかわいい。オネショタの味がする。大きなお友達も大満足である。
赤ちゃんのエルちゃんが「ツバサとけっこんする!」と騒いで「結婚ごっこ」をするのもよかった。結果的に全員と結婚することになってるのもいい。「ごっこ遊び」が大好きな女児、すげぇいっぱいいるもんね……。恋愛未満の愛情である「友愛」があふれていて、その量も適切だったと思う。
ヒーローガールな宇宙人ソラ・ハレワタールが敬語をずっと使っているのも、ましろさんを大切にしているところも、ましろさんを危ない目に遭わせたくないところもよかった。肉体的に強くあろうとする女子を真摯に描いたところが、とても好きだ。子どもの頃助けてもらった騎士団長の女性に強く憧れているところ、ロールモデルに近づきたくて頑張り続けるところ、その騎士団長を強さ的には追い抜いてしまうところ、彼女を守りたくても守り切れなかったところ。挫折も、それからの回復も描くところ。肉体的に強くあろうとして努力する女子の等身大の姿として、私は大いに共感した。
空手や剣道を習っている女子は多い。肉弾戦は初期プリキュアからのコンセプトだ。
「女の子だって暴れたい!」
プリキュアシリーズの初代プロデューサーが『ふたりはプリキュア』の企画書に記した名言である。強くあろうと鍛錬していれば必ず突き当たる壁を、女児アニメで表現したことを評価したい。
M-1グランプリ × ひろがるスカイ!プリキュア【コラボPR②】
今年一番萌えた映像。「ましろさんが一番グランプリですよね!」「ちがうよ~」も最高。ソラちゃんはスカイランド人なので漫才なんて知らないのだ。ソラちゃんもましろさんも世界一可愛いよ!
5位 SPECIALZ / KING KNU
アニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」のOP主題歌。「ゆあーまいすぺーしゃーる ううーうううー」という最初の5秒で、もう優勝している。最初の5秒で勝ち。脳内でYUMEKIさんが「もう決めました」と言っている。
アニメの出来も素晴らしかった。渋谷事変の不穏さ、東京の繁華街でいよいよ百鬼夜行が始まる絶望感がよく現れている。歌詞も原作の内容に沿っており、曲のクオリティも高い。最も幸福なかたちのアニメ・タイアップだと思う。
6位 第ゼロ感 / 10-FEET
こちらも幸福なアニメタイアップ曲。映画『THE FIRST SLAM DUNK』エンディング主題歌。監督兼原作である井上雄彦先生が好きなバンドとしてご指名された10-FEETのTAKUMAさんは、気合い入れて7~8曲作ったうえにストックの5曲をすべて井上先生に渡したら、全部ボツをくらったらしい。「じゃあ、新しい曲作ります。できるまで、ひまつぶしに聴いといてください」と言って、渡したボツ作の中にこの曲があった。そこでようやく「これだ!」と言ってもらえた、と言う。
ソース:https://mezamashi.media/articles/-/25955
作者が気合を入れて作った自信作よりも、息抜きで作った作品や気の抜けたお遊びがヒットする、という話はよく聞く。力が入りっぱなしのものよりも、緩急があって軽いパンチが一発だけ入ってるくらいの方が、消費にちょうどいいのだろうか?くどい味付けよりも、さっぱりした口当たりでカロリーが低いものの方が食べやすいということなんだろうか?よくわからない。実は漫画や文章でもよくある話なんだけど、作者がこれをコントロールするのはむずかしい。編集さんやアドバイザーが必要な所以である。
なお、私はオープニング主題歌『LOVE ROCKETS』を歌うバンド「The Birthday」のチバユウスケが好きだった。こちらも井上雄彦先生の御指名だという。しかし、チバさんは2023年12月に食道がんで亡くなってしまった。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのギター・アベフトシさんに続き、ボーカルのチバさんまで夭折してしまうとは。つらい。とてもつらい。
その1ヶ月後、10-FEETはこの曲の大ヒットを受けて紅白歌合戦に初出場する。TAKUMAさんは間奏で「スラムダンク、The Birthday、チバユウスケ!」と叫び、『LOVE ROCKETS』のサビのワンフレーズを歌った。ラブロケッツ、ラブロケッツ、ジェリーの魂を宿って、と。そして最後はピックを捨てて右手で空の盃を持ち、それを一口飲んで、盃を天に向かって掲げる。天国のチバさんと乾杯するかのように。
これらはリハーサルではまったくやっておらず、ぶっつけ本番でつい色々と叫んでしまったらしい。さすがライブハウスバンドである。なんか演奏もすげぇうまかったし。
実は私も訃報を聞いてからは、『第ゼロ感』を聴きながらもふとチバさんのことばかり考えてしまっていたのだ。自身のキャリア最大の晴れ舞台であろう紅白で、チバさんへの追悼を全力で叫びたくなってしまったTAKUMAさんの気持ち、わかる。その心意気に私の心は救われた。泣いちゃいました。
The Birthday – LOVE ROCKETS
こんなことをロックン・ローラーに言ってはいけないのかもしれないけれど、ウエノコウジさんとキュウちゃんには長生きして音楽を続けてほしい。
以上です。
この先はハロプロ楽曲大賞と同じになりますのでそちらをご覧ください。(2024/6/1 文筆、2025/4/19 完成)