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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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2013年ハロプロ「歌詞だけ」ランキング

実は俺コン・ハロプロ楽曲ランキングは2008年からやっている。

2008年はこれ↓
1位リゾナントブルー、2位パパンケーキ、3位恋愛ライダー、4位雨の降らない星では愛せないだろう?、5位こんにちぱ(これは 正確には2007年か。)

2009はこれ↓
①流星ボーイ(Berryz工房)②はぴ☆はぴサンデー!(月島きらり)③はじめての経験(真野恵里菜)④ぁまのじゃく(S/mileage)⑤私の魅力に気付かない鈍感な人(光井愛佳)

2010はこれ↓
1位 Independent Girl~独立女子であるために(Buono!)
2位 ○○がんばらなくてもええねんで!(スマイレージ)
3位 ダンスでバコーン!(℃-ute)
4位 会いたいロンリークリスマス(℃-ute)
5位 友達は友達なんだ!(Berryz工房)
6位 シャイニングパワー(Berryz工房)

2011はこれ↓
1位 プリーズ!ミニスカポストウーマン(スマイレージ)
2位 君の友達(Berryz工房)
3位 ブスにならない哲学(モベキマス)
4位 ダレニモイワナイデ(真野ちゃん)
5位 この地球の平和を本気で願ってるんだよ!(モーニング娘。)
6位 彼と一緒にお店がしたい!(モーニング娘。)
7位 堕天使エリー(真野ちゃん)
8位 好きだな君が(モーニング娘。というかさゆみずき)
9位 もしも…(モベキマス)

2012はこれ↓
1位 One・Two・Three / モーニング娘。
2位 The 摩天楼ショー / モーニング娘。
3位 大好き100万点 / モーニング娘。(譜久村聖・石田亜佑美)
4位 悲しきヘブン / ℃-ute
5位 Be 元気 <成せば成るっ!> / Berryz工房
6位 ピョコピョコ ウルトラ / モーニング娘。

全然ハロプロなんかに興味がない、私の本の善良な読者さん(主に医療従事者)に少しでもハロプロの宣伝がしたい!というくだらない一心だけで、ここまで続けてきたのである。「モーニング娘。ってまだ存在してるんだ」と思ってもらえるだけで、よかった。ダサイと思われても、キモヲタ丸出しとドン引きされても、「えっ、ねじ子ってちょっと頭おかしい……?」と思われても、ハロプロの宣伝ができるのならそれでよかった。ねじ子は本当は、ハロプロが好きなことはあまり公にしたくないんだ。心の奥に大切にしまっておきたいんだ。だけど、ハロプロはあまりに虐げられていて、心無い人たちに踏み潰されてぺしゃんこになってしまいそうだったから、私一人でも声をあげたかったんだ。

当時、楽曲のランキング企画をやっている人は少なかった。(ハロプロ楽曲大賞や宇多丸さんのマブ論はもちろんあったけれども。)2013年になって、ハロプロも多少復興したようで、今年はいろんなところで楽曲ランキング企画が見られる。タワレコの社長も、大森靖子さんも、うすた京介さんも、ナカGさんも、南波一波さんも、スマイレージの女の子達すらも「2013年私のハロプロベスト5」を発表してくれた。すると、私のような音楽素人がランク付けすることにあまり意味がなくなってくる。「では、次に私がハロプロのためにできることはなんだろう?私の得意分野ってなんだろう?」と思うと、まずはこの駄文である。というわけで、今回はハロプロの「歌詞のみ」に注目したランキングを作ってみた。

というわけで突然ですが、ここから2013年ハロプロ「歌詞だけ」ランキングを始めます。あくまでも歌詞だけ、です。他の要素には完全に目をつぶっています。

※ここに書かれているのはあくまでねじ子個人の解釈です。「俺の解釈と違う!」と感じることもあるでしょう。歌詞の解釈は人それぞれです。むしろ100人が読めば100通りの読み方ができるのが素晴らしい詩というものであり、素晴らしい芸術作品だと思います。

第1位 君さえ居れば何も要らない / モーニング娘。

つんく♂の歌詞は、ほとんどがつまらない。単純な単語の羅列だったり、語感はいいけれども意味が分からない言葉の繰り返しだったり、寒い駄洒落だったり、すぐに廃れそうな流行語だったり、説教臭かったり、無駄にスケールが大きくて閉口したりする。待つ子ミジメックスって何だよ。地球が泣いているって何だよ。そもそもラブマシーンって何だよ。あ、矢口のことか。確かに奴はラブ・マシーンでセクシー・ビームだったな。14年かけて伏線が回収されたな。

しかし一年に5つくらい、「すごくいい」のがある。私はそれを味わうために、つんく♂とハロプロを見続けてると言ってもいい。「すんごくいい」のにあたると、私の感情は底が抜けたように流れ、フレーズが頭を離れず、何をしていても脳内に鳴り響きつづけ、果ては座右の銘になるほどの影響を受けてしまう。過去の例で言えば「どこにもないものならば 作りましょう」や「誰もが知らないならば 研究しよう」や「ミニミニサイズでも幸せマキシマム ミニミニサイズでも大きな夢がある」や「迷うな セクシーなのキュートなの どっちがタイプよ?」や「1年なら我慢できる 夢あるならとことん目指せ お風呂のとき寝る前とか ちょっとは電話して」や「やんやん 年とりたくない やんやん このままがいい」や「自由で何が悪いというの?好きなようにしていいじゃない」や「かぼちゃの馬車を正面に回して!」や「ガラスの靴はこの手の中にある」などだ。

そして『君さえ居れば何も要らない』は歌詞がいい。歌詞だけがダントツにいい。もう泣けて泣けてしかたない。個人的には、ハロプロの歴史の中でも三本の指に入る歌詞だと思っている。

と言っても、この歌詞は決して多くの人の心には響かないだろう。100人に1人くらいがぐっとくれば、いい方ではないか。そして私はまさにその「1人」なのである。

つんく♂は、ラブソングに心理描写や情景描写やシチュエーション表現を多用する。その反面、女性的な身体表現や体の接触表現をあまりしない(胸のふくらみとか、スカートの下とか、バナナの皮とか、秋本康が頻用するアレね)。結果、明らかに思春期女子の恋を歌っているはずなのに、主人公が男でも女でも大人でも子供でも大丈夫だし、その愛する相手が男でも女でも大人でも子供でも問題がない世界観になる。だからこそ、つんく♂の歌はセクシュアルマイノリティからの絶大な支持を得ているのだと思う。世界中の「踊ってみた」「歌ってみた」動画を見ていると、日本でもタイでもフランスでもアメリカでもメキシコでも、世界中のオカマちゃんたちがハロプロを好んでカバーしている。国境を越えて通じるものがあるようだ。なんだかほほえましい。

『君さえ居れば何も要らない』は、つんく♂にしては珍しい男性目線の歌詞である。少し引用しよう。

「目をキラキラさせて僕に語った君の将来図は ただ聞いているだけで胸が熱くなり泣きそうになった 君さえ居たなら何も居らない 僕らの将来は誰も決められない」つんく♂はこの曲を、息子の寝顔を見ながら書いたという。モーニング娘。が歌うのだから女子の恋愛の歌詞ってことにしようとしているけれど、実際は違う。そもそも思春期の女子にこの状況は生じにくい。この曲は自立した大人が、まだ自立しきっていない他者を愛し、支えようとしている歌である。ここまでは家族愛と言ってもいい。

でも「時代が変わっても僕は変わんない」「年齢を重ねても愛は変わんない」という部分から、この二人は確固たる社会的契約・血縁的確証を得ていない不安定な関係だということに気付く。ガチガチに戸籍や血縁で縛られている夫婦や親子や家族では、このような言葉を言う必要があまりないからだ。それを踏まえると、歌い出しの「僕たちは自由だろ なのに窮屈だ」というのも、「あんなに怯えてたあの日のことを忘れてしまうの 心から誓った真夜中二人強く抱き合った」という歌詞も、意味がはっきり見えてくる。「二人の現実が真実となるように」というのも、二人の関係が「真実」とは認められていない社会の存在を暗に表している。

さらに最後の「太陽が今日もまた美しく顔を出す まるで僕たちを祝福してるように」というのは明らかにセックスの後の朝であり、太陽以外は僕たちを祝福してくれていない状況であることの比喩になっている。つまり周囲から祝福されない、でもお互いを思い、必死で支えあっていて、すでに何年か肉体関係のある二人の歌なのである。不倫でも年の差でも身分差でも、ロリでもペドでもゲイでもレズビアンでも近親相姦でも、教師と生徒でもロミオとジュリエットでもブロークバック・マウンテンでも何でもいい。とにかく世間から祝福されない二人が、それでも強く惹かれ合い、セックスし、その関係が何年も続き、周囲から隔絶したかのような密室で夜を過ごした翌日の朝の歌なのだ。それでも「今日もまたI LOVE YOUをやさしくささやい」て、いつか「二人の現実が真実となるように」願ってるんだよ。泣けてくるね。

歌詞に直接的な表現は何一つないのに、シンプルな言葉選びだけでこれだけの状況を伝えてくるのだからつんく♂はすごいと思う。たぶん新宿二丁目のハロヲタの皆さんもこの曲には震えているはず。しかし、これをあの竹のように真っすぐ生きている侍の申し子・鞘師に歌わせるのは似合わない。ていうか、今のハロプロメンバーの誰にとっても、この歌詞は背伸びしすぎている。強いて言えば、小田さくらちゃんのための曲なのだろうか?言いたかないけど、たぶん今一番この曲を上手に歌えるのは矢口だな!

ちなみに洗車モップみたいな衣装と、低予算丸出しのMVは良くも悪くもいつものハロプロクオリティです。どうかと思います。

第2位 大人の途中 / スマイレージ

非常に残念な処女喪失の歌。そこそこ可愛い、ちょっと調子に乗った女の子が、年上の不良の男子に憧れて、「いい感じになってきた!彼女になれるかも~!」なんて浮かれている間に、気付いたらどこぞに連れ込まれて、気付いたら陰茎が挿入されていた、という何とも残念なエピソードである。「頭ん中 真っ白け 手足バタバタしてるだけ」「大好きな人 確かに憧れの人なのよ 声をかけたの それも私なんだな」「Oh my god 夢見てた 感動的な場面なの No そうじゃないよ 感動しないもん」「私が馬鹿なの アーメン」どれも秀逸。確かに高校の頃クラスに一人くらい、こういう痛い目にあっている女の子はいたよね。女子高生の間ではわりとありふれたエピソードだよね。たぶん主人公の女の子は、処女だけ取られてこの後ヤリ捨てられちゃうんだろうなぁ。ちょっとヤンチャな男に憧れていた女の子も、こうやって大人になって「真面目で誠実な男が一番」という価値観に変わってゆくのですね。

真っ赤な照明も意味深。

第3位 おへその国からこんにちは / ハロプロ研修生

タイトルだけで今年一番笑った。どんな国だよ。何がこんにちはしてるんだよ。臍ヘルニアか。

もちろん三波春夫の『世界の国からこんにちは』のオマージュだってことはわかっている。そんな御託はどうでもいいんだ。一番の問題は「世界」のかわりに「おへそ」を持ってくるセンスなんだ。しかも、入りの台詞が「なあみんな、へそんとこよろしく!」である。どう冷静に考えても頭がおかしい。へそを指さしまくって腹をパンパンするダンスを、へそ出し衣装で舞い踊る、下は11歳から上は16歳の女の子たち。狂気である。このタイトルを「よし」としてゴーサインを出す企画会議がこの世に存在するというだけで、人類の多様性に恐れおののき五体投地したい気分だ。ちょっと低め内角を狙いすぎなんじゃないかい?これデッドボールぎりぎりだろ?

ちなみに「おへその国からこんにちは」連呼と、「なあみんな!へそんとこよろしく!」以外の歌詞はいたって普通である。大事なことを言っているようで実は特に何も言っていない、でも底抜けにポジティブだから弱っている時には心にスッと入り込んでくる、いつものつんく♂の歌詞である。つまりこの曲で言いたいことは「おへその国からこんにちは」だけ。さらに突き詰めてしまえば「女子中学生のおへそが集まっている国がここにあるよ!」ということであり、「女子中学生のおへそが好きな人はこの国においで!ハロプロ研修生っていうんだよ!」ということである。もう何も言うまい。そのまま世界中の好事家を集めればいい。つんく♂がメンバーに絶対に手を出さないタイプであることに私は心底ほっとしている。もう諦めたよ、あくまで「おへその国」であって、おへその下の国じゃないだけマシだと思うことにしたよ。むしろ、これに耐えられる柔軟性をもった女の子だけが生き残れる国なんだろ?まったく人の世はアフリカのサバンナよりも過酷だよ。

海外でハロプロは確かに人気がある。YoutubeのMVに字幕を付けるのも大賛成だ。海外のファンも喜んでいる。でも、この曲にだけは字幕を付けちゃダメだ。こんなものに字幕を付けて外国の人に見せちゃぜったいにらめぇぇぇぇぇ!!ヲタとつんく♂のみならず、事務所ぐるみでロリコンだってことがばれちゃううぅぅぅ!!かっこつけてクールジャパンぶってるんだから、やめてあげてえぇぇぇ!!

ちなみに同じハロプロ研修生の『彼女になりたいっ!』も最高のロリコン賛美ソングで、頭を抱えてしまう秀作に仕上がっている。

第4位 愛の軍団 / モーニング娘。

鞘師がメインになったモーニング娘。の歌詞の特徴、それは「逆境からの挑戦」である。

鞘師がセンターになった最初の曲『One・Two・Three』の「あぁこの夢には ねぇどれくらいの可能性があるというのか さぁ全部認め 未来を信じよう」という歌詞を見たとき、ねじ子は驚いた。モーニング娘。の歌詞が大きく変わった瞬間だった。それまでモーニング娘。は逆境を認めていなかった。国民的アイドル面をいまだにしていた、とも言える。モーニング娘。が全然売れなくなったことも、テレビに呼ばれなくなったことも、知名度がないことも、オワコンと馬鹿にされていることも、他の女性アイドルグループに大差で負けていることも、すべて認める。かつ未来を信じる。正しい現状認識が初めて確認できたのだ。そしてEDMとフォーメーションダンスという「次のステップ」を初めて示した。結果として『One・Two・Three』はよく売れ、今のモーニング娘。を象徴する曲になった。

以降ずっと、モーニング娘。の鞘師メイン曲は「認められるために(もっと言えば売れるために)努力し、挑戦しつづける女の子」の歌だ。鞘師はまるでサムライのように芸事に一生懸命で真っすぐである。「姫路城下の刀の鞘を作る一族」の苗字にふさわしい姿だ。そして、その決意を上手に言葉にすることもできる。鞘師がセンターにいる一番大きな理由は、顔でもダンスでも歌でもない。一生懸命に歌とダンスに励む「真摯さ」を最もわかりやすく具現化している存在だからである。その愚直さ、目標に向かうひたむきさとガッツ、色気や邪心のなさはフィギュアスケートの浅田真央選手に近い。日本人が一番好きなタイプのアスリートだと思う。「アスリートかよ!アイドルじゃないんかい!」と言われてしまうと非常に耳が痛いが、鞘師ならなんとかしてくれると信じてる。

『愛の軍団』は音源を聞くと、明らかに「ワイの軍団」と歌っている。これは「つんく♂の軍団」であり、「我々の軍団」でもある。つんく♂やメンバーやスタッフやファンも含めた「我が軍」とも言える。確かに、今のモーニング娘。は逆境や偏見や過去のモーニング娘。と戦っていると思う。「大きな力に飲み込まれない」そうである。「大きな力」がいったい何を指すのかはよくわからないが、折れずに頑張ってほしい。

第5位 ヤッタルチャン / スマイレージ

一番の落ちこぼれだった関西出身の中西香菜ちゃんをセンターに抜擢して作った、関西弁のコミックソング。「昔はよかったなんて言わせない 未来の方が楽しいって思わなきゃ損」という歌詞も含めて、前田憂佳という巨大なエースが抜けた後のスマイレージの新しい方向性を示すことができた曲だ。

さらに加筆するとすれば、1番のAメロ部分の歌詞がいい。

「一日じゃ足んないよ」なんて
言っちゃって 甘えちゃって
たぶん1年間あったって
限界まで 遊んじゃって
君は いつだって「ない ない ない」
そして いつだって「ヤバイ ヤバイ ヤバイ」
どんな時もデキナイチャンだもんね ね ねねね

身につまされる……。締切前のすべての文筆家・漫画家・同人作家にこの歌詞を捧げたい。ねじ子もどんな時もデキナイチャンだもんね……。ね。ねねね。

第6位 私が言う前に抱きしめなきゃね / Juice=Juice

さっきも書いた。「覚悟とかないならバイバイ」「足震えちゃってる子バイバイ」「本物の覚悟が今日も星となる」「社会はCOOLで 流行りはもう古い 星空が今夜も眩しい」という歌詞が、デビュー曲らしい悲壮な覚悟と決意に満ちている。それも含めて、デビュー直前に脱退してしまった大塚愛菜ちゃんのための曲だったと思う。(2013/12/29)