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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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2018年 ねじ子の楽曲ランキング

1位 快盗戦隊ルパンレンジャーのテーマ


2018年最もくり返し聴いた曲。再生回数ナンバーワン。『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』劇中歌としても、作業用BGMとしても、何度もくり返し聴いた。テンションがめっちゃ上がる最高のジャズサウンドだ。イントロのリズム隊が最高。ピアノソロも最高。ルパンレンジャーの変身バンク → 乱闘開始のBGMとして劇中でもくり返し使われている。

ルパンレンジャーの最高潮にかっこつけた名乗りのあと、そのまま戦闘に突入する流れが毎回とてもかっこいい。無駄にスタイリッシュ。必要以上にきざったらしくマントを翻して「世間を騒がす快盗」を気取っているけれども、実際の中身は犯罪被害者家族のナイーブな未成年男女と、恋人を失った大人の男(保護者役)っていうのもいい。ドローンを多用し、マントをたなびかせてひらひらと回避しながら銃を撃つ戦い方も無駄に美しい。あふれるほどスタイリッシュ。

ルパンレンジャーの必要以上にきざったらしくかっこつけたアクションはそれ単体だと成立が難しい。あまりにかっこつけていると、見ているこっちが照れてしまうのだ。対比する無骨なパトレンジャーがいたからこそ、成立できる最大限の「かっこつけ」なのだと思う。快盗側の敵を出し抜く回避型の戦闘と、警察側の無骨な猪突猛進型の戦闘の対比は非常に見応えがあった。ドローンを多用した映像も素晴らしく、見たことのない絵ヅラがたくさんあって楽しかった。

武道館でのライブ「超英雄祭」にてこの曲の生演奏が行われたと聞く。わーい!やったー!Blu-rayがとても楽しみだー!

2位 M・A・X power / 谷本貴義

『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』で歌詞がある曲だと『M・A・X power』が一番好き。もちろんTV主題歌も好きだし初美花ちゃんの歌も両方好きだし、『氷の世界』も魁利くんの思春期特有の不安定で乾いたボーカルが歌詞の世界観とマッチしていて大変よいです。でも一番聴いた、かつ一番元気が出る曲は『M・A・X power』。サビがすごく耳に残る。「エックス!エックス!エーックス!」ってカラオケで連呼するのも楽しい。快盗にも警察にもなれる、当然どちらからも今ひとつ信用されず、出生に謎を秘め、そのくせとびきり明るく多動な高尾ノエルというキャラクターの魅力がよく出た一曲だと思う。

ノエルはおもちゃの販売促進という「大人の事情」に振り回されて、最後まで行動原理がはっきりしない、かつ勝利条件が満たされない人になってしまった。気の毒に思う。少なくとも私の周囲の子どもはみんなノエルが大好きだ。ノエルは快盗とも警察ともどちらとも仲良しだし、いつも明るくニコニコしているし、「好きだよ」って声に出して言ってくれるし、衣装も金と銀でキラキラしているし、いつもクルクルまわってるし、運動神経抜群だし。子供が大好きな要素しかない。みんなと仲良くしたい、みんな大好き、みんなと上手くやりたい、育ての親も取り返したい、というシンプルで欲張りな気持ちをたくさんあわせもち、そのすべてを実現するために近視眼的に行動する。そのうちのいくつかは裏目に出る。実にわかりやすいし、実に「子供」っぽい。純粋な子供の欲求だ。ルパレンもパトレンもどちらも大好きな視聴者の子供に最も寄り添った、メイン視聴者そのままのキャラクターだったと私は感じている。

そもそも快盗で、かつ警察で、コレクションの知識が作中で一番あるエンジニアで、ずば抜けた身体能力をもち、強く、顔もよく、あげくの果てに「異世界人」ってさ。一人のキャラクターにいくらなんでも要素を盛りすぎだろ!メアリー・スー呼ばわりされても不思議じゃないほど記号が乗っている。しかもテコ入れによって、大きなお友達に一番人気だった圭一郎の強化装備を奪い取っていったのだから、これはむしろ「高尾ノエルはなぜ嫌われずにすんだのか」不思議なレベルである。でもね、私もノエル大好きなんだよねぇ!子ども達もノエル大好き!まったく憎めないんだよ!ノエルが責任ある26歳の大人しかも警察官だと思うと、その行動にさまざまな矛盾や無責任を感じてモヤモヤするんだけど。それでもノエルが劇中で落ち込んでいると、私も悲しい。スパイと疑われて落ち込んでいるノエルを見ると私まで落ち込む。その次のクリスマス回でのびのび明るく楽しく浮かれたノエルを見たら、なんだかほっとしたもん。「ノエルが楽しそうで何より」って思っちゃったもん。高尾ノエルは視聴者そのものだったんだな。神の視点で怪盗と警察両方の事情を把握していて、快盗も警察も大好きで、どちらにも仲良くしてほしいしみんな幸せになってほしい。視聴者の子どもの願望そのものの存在。あるいは妖精やコレクションやグッドストライカーみたいなものだったのかもしれない。

御託はさておき、物語において高尾ノエルは結局「異世界人」だった。唐突な設定で私は正直よく飲み込めず、最後までルパンコレクションまたはコレクションコンプリート特典を発動するときに必要な条件じゃないかと思っていたよ。

ということは、ノエルは異世界人ながらヒトと変わらぬ外見で、栄養法も人間と同じ、幼児形態があり、下手したら人間と交配可能で、驚異の運動能力をもつ(これはノエルだけ?)長寿の生命体ということになる。これは面白い。メカニズムを解明すれば人類の夢である「不老不死」につながる研究ができるぞ。金持ちや権力者ほど健康長寿を強く望むから、ノエルの身体の構造究明は巨万の富を生む可能性がある。人類の医学の発展に貴重な生体だ。私も医者として興味がある。いったいどんな構造なんだろう?ゲリ・ル・モンドの画像を一時停止してガン見したんだけど、よくわからなかった。

そう考えるとゴーシュ、あいつ医者のくせに何やってんだ。もっとちゃんと調べておけよ。ゲリルモンドみたいな解像度が低い画像で満足せずに、さっさとCTかMRIを撮っておけよ。せっかく拘束したんだからDNAも採っとけよ。術前管理の手順にばかりこだわってるから、お前は本質を見失ってボスにも見捨てられるんだよ。

ゴーシュに比べればドグラニオのほうがよほどいい仕事してる。皮膚を剥離した下に毛細血管組織がはりめぐらされていて赤褐色の血液が流れてるってわかったもん。有益な情報だ。さすがドグラニオ様、伊達に生き残って地下室監禁緊縛くっころ要員になってないな。

まあノエル自身の物語とルパン家の謎はまったく語られることなく終わってしまったので、今後の外伝や小説やVシネマで補完されると信じています。どんな媒体でも見ます。その時はぜひVSチェンジャーの没音声を拾ってくださいね。Wヒロインアイドル回もよろしくね!!!!

3位 U.S.A. / DA PUMP


2018年ハロプロ楽曲大賞受賞曲。ハロプロじゃないけど。私たちハロヲタは2018年、DA PUMPにとてもいい夢を見させてもらった。

確かに私たちハロヲタは『U.S.A.』をいち早く発見した。豊洲のシングルリリースイベントになぜか大量のハロヲタが押しかけ、現場でハロプロ仕込みのコールをした。それを見つけたDA PUMPメンバーと古参ファンの皆さんはコールをあおり、もっともっとと盛り上げ、私たちをあたたかく受け入れてくれた。DA PUMPと古参ファンの皆さんの度量の深さにハロヲタは涙した。

私たちはもうずっと、全力でコールを入れられる曲を求めていた。「エル!オー!ブイ!イー!ラブリー◯◯!」ってほんとはずっと叫びたかった。全力でウリャオイしたかった、フワフワしたかった、PPPHしたかった。愛するメンバーの名前を大声でコールしたかった。ISSAさんたちは、大きな愛で私たちハロヲタの欲望を受け入れ、面白がってくれた。古参DA PUMPファンの皆さんも喜んでくれた。私たちは嬉しかった。だってクールハローとかいう糞計画をいつまでも捨てないハロプロは、私たちの願いをちっともかなえてくれないんだ。コールやヲタ芸を入れると最高に気持ちいい曲を、ちっとも出してくれないんだよ。

DA PUMPファンの意見を取り入れてハロヲタもいろいろ対応した。ハロプロでは「そのとき歌っている人」「パート割がある人」の名前を叫ぶルールがある。ISSAだけが歌を歌うDA PUMPでは、ISSAだけをコールすることになってしまう。「他のダンスメンの名も呼んでほしい」という古参ファンからの指摘により、ハロヲタはメンバー全員の名前を順番に叫ぶようになった。すると今度は、自分の名前がコールされたときにダンスメンバーもアピールしてくれるようになった。我々もメンバーの顔と名前を覚えた。BEYOOOOOOONDS全員の名前をねじ子はまだ覚えきれていないのに、DA PUMPの名前は覚えた。夏のハロコンにはDA PUMPがわざわざ来てくれて、満員の会場を盛り上げた。歌番組にもDA PUMPとモー娘。を一緒に呼んでもらえて、みんなで一緒にいいね!ダンスした。楽しかった。地上波歌番組の観覧には女性ファンばかり呼ばれるから、いつものハロヲタより高音で重低音が含まれないコールが新鮮だった。

そこから数ヶ月。地上波テレビをまったく見ない息子たちが、保育園や小学校で『U.S.A.』を覚えて帰ってきた。私はそのとき「え、USAってそこまで流行ってるの!?」と驚いた。年末の忘年会カラオケで仕事先の若い男子たちが『U.S.A.』を歌っている。「え、USAそこまで流行ってるの!?」と二度目の実感をした。必死でコールを入れないようにこらえたよ。「エル!オー!ブイ!イー!ラブリー◯◯くん!」という声が喉元まで出てきたのを必死でこらえたよ。自分を褒めてあげたい。8月のリリイベの時点では古参DA PUMPファンとハロヲタと新宿二丁目の皆さんしか知らなかった曲を、内輪だけで宝物のようにして楽しく盛り上がっていた曲を、いまや日本中の老若男女が知っている。踊っている。まさに夢のようだ。

しかしその夢はよっすぃの逮捕によりもろくも崩れ去った。我々ハロヲタは夢から醒めて取り残された。DA PAMP再ブレイクの夢の中にもうハロプロはいない。我々ハロヲタもいない。流行という大きな波を一緒に楽しむことはできなくなった。

それまで、私たちは本当に夢のような体験をさせてもらった。池袋のリリイベの映像を見ながら「私たちハロヲタはDA PUMPを再ブレイクさせることはできるのに、どうしてハロプロを再ブレイクさせることはできないのだろう?」などとしたり顔で奢ってみたりした。はーちんの卒業公演が彼女らしくとても清廉で美しかったこと、特撮戦隊にメインヒロインとして工藤が抜擢されて本当に大切に扱ってもらったこと、そのルパパトが歴代最高と言っても差し支えないドラマであったこと、夏のハロコンは久しぶりのOGがたくさん出場したこと、加護ちゃんが『I WISH』を歌ったというニュースを見て感動のあまりねじ子自宅でむせび泣く、など。2018年前半はハロプロにも明るい出来事が多く、私も久しぶりに楽しいオタク活動ができていた。ハロプロにも20周年らしい上昇気流が流れていた。流れていたのに。よっすぃの事件のせいで、それらはすべて無に帰した。

4位 ミッドナイト・ボルテージ / テンタクルズ Splatoon2

ゲーム『スプラトゥーン2』の追加コンテンツ「オクト・エクスパンション」の中の一曲。「2」の上にさらに有料追加コンテンツ。ハードルが高いね!『スプラトゥーン1』の人気キャラだったシオカラーズが脇役になり、その代わりに出てきたメインMCがこのテンタクルズである。めんどくさいドルヲタである私は、シオカラーズが更迭されたことに心理的抵抗を覚えていた。運営や事務所に猛プッシュされる新アイドルグループに対して懐疑の目を向けるのは、ドルヲタとして当然だ。ドルヲタあるある。メンバーの一人は敵である「タコ」だしさ。

しかし、この『ミッドナイト・ボルテージ』がすごくいい曲だったから、ねじ子はくるりと手のひらを返した。瞬時に返した。これまたドルヲタあるある。テンタクルズ最高ぅぅぅ!イイダさんのボーカルが大人っぽくてすっごくいいねぇ!「なんでタコがMCなのよ!?」とか思っててごめんね!ヒメの可愛い声が軽快に乗ってくるミスマッチ感も最高だね!うるさい客を黙らせるには、いい曲を作って、曲で上から殴るしかないんだよね。結局それしかないんだよ。

5位 命の灯火 / 大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL

嫌になるくらい繰り返し聴かされた曲。もう何回聴いたかわからない。たぶん今日の夜もスマブラしながら5回くらい聴くことになる。格闘ゲームで手を動かしながら、大声で高らかに歌いあげたくなってしまう不思議な魅力がこの曲にはある。もちろん歌いながら私の気分はカービィである。たった一人生き残って、強大な敵に侵略された大地を高台から見つめるカービィだ。それだけで私はなにも文句を言えなくなってしまう。最初聴いたときはそこまでいい曲だと思わなかったんだけどな……。やっぱりゲームの中で素晴らしい体験をすると、聴こえ方が変わってしまうのか……。スマブラは過去の名作ゲームの音楽を現代風にアレンジして、大量に収録し、シャッフル可能なライブラリを提供してくれる。これがまたいい。作業用BGMとして非常に便利だ。作業用BGMの再生マシンとしても8000円くらいの価値がある。ということはゲームは実質タダ。桜井さん最高だな。

6位 恋して♥ポプテピピック

※正しい映像は『ポプテピピック』アニメ第2話を見て下さい。

女性ボーカルver.


男性ボーカルver.

上坂すみれちゃんのオープニング曲『POP TEAM EPIC』の方が音楽的に出来がよいことを承知の上で、あえての『恋して♥ポプテピピック』。歌詞がたまらなく好き。「サブカルこねくり回しても 偽物だらけ」という歌詞が狂おしいほど好き。声優が15分おきに変わり、女子声優ペアで1回 → 男子声優ペアでもう1回歌う仕掛けも好き。毛糸人形アニメも好き。映像アイディア含めての「作り込み」が最高。

現在の女性アイドルは声優業界にあるのだと思う。若手女性声優の皆さんは正しく女性アイドルである。小倉唯ちゃんや上坂すみれちゃんを見ていると、より強くそう思う。ももちの目指していたアイドルとしてのロールモデルはどう見ても田村ゆかりさんであったし、偶像としての「アイドル」を貫きたい!という野望を持った女の子は、ハロプロやAKBよりも女性声優を目指したほうがずっといいように思う。ハロヲタの私ですら、そう思う。そっちの方がきっとやりたいことができるでしょ。

7位 進化理論 / BOYS AND MEN

ガンガンズダンダン!2017年の楽曲グランプリでねじ子は「シンカリオンがせっかくアニメ化するのに、なんでボイメンがオープニング曲なのぉ!山ちゃんを下ろさないでぇ!」って叫んでいたのだけれど、いまやボイメンのOPにもすっかりノリノリである。ガンガンズダンダン!クライマックスの戦闘シーンでこの曲がかかると一気に気分が上がる。いい曲だ。

「新幹線変形ロボ シンカリオン」はアニメもおもちゃも非常によくできていた。Youtube公開や玩具系YoutuberとのコラボやAmazon Primeなど、時代に合わせたプロモーションもうまかった。シンカリオンのアニメは好評につき2019年も続く。巨大新作ロボットアニメとして1年以上続く単独TVアニメは平成唯一であり、昭和でもマジンガーZやゴッドマーズ以来とのこと。すごいね。

昨年の放送の間にものすごい勢いで新しいシンカリオンが増えていったのを見るに、アニメ放送は当初1年で終わる予定だったのだろう。玩具もこの1年で出し尽くした感がある。シンカリオントリニティーとか、とつぜん登場して物語も駆け足だったし。あと1年放送するつもりがあったら、もう少しあとに登場を引っ張れたのでは?霧島タカトラも五ツ橋兄弟ももっとじっくり描けたのでは?リアル新幹線はタカラトミーの都合で勝手に増やせないし、2019年以降のシリーズ構成はきっと大変だろうと予想する。いったい今後どうなるんだろう?地底世界と父親世代の話を続けるのかな?シリーズ構成の下山さんにはぜひ頑張って欲しい。

ちなみに同じ下山さんがやってる『仮面ライダージオウ』は(白倉さんが)時間軸をこねくりまわしすぎなうえにパワーバランスの整合性が毎回違うので、私はあまり楽しめていない。理解が難しいし、理解しよう!と思って頑張って考察しても結局は「大人の事情に突っ込むやつは馬に蹴られる」って明言されちゃうんだもん。つじつまを合わせるために頭を使う気力が沸かないんだよね。ごめんね。

2018年、ルパパトとビルドとハグプリとシンカリオンが面白くて私は本当に幸せだった。こんなに豊作でいいのだろうか。2018年の土日の早朝、私はずっと幸せな時間を過ごした。そんな一年も終わり、生きる糧を失って私は自分を見失いかけている。

結局私は、日曜の朝になれば最高の脚本と演出のもと、大好きな女の子が必ず見られる生活に慣れすぎていたのだ。ルパパトが終わりこれからどうやって日々の活力を得ればいいのか、私にはわからない。去年の2月まで私は何を食べていたんだ?毎日どうやって生きていたんだろう?まるで思い出せないよ。ルパパト(とビルドとハグプリ)のおかげで、1年間ずっとわくわくして過ごしてた。家族みんなで来週の展開を予想するのが楽しかった。今の希望はルパパトのファイナルライブツアーのチケットを、たった1公演もっていること。これを糧に生きるしかない。

8位 We will rock you / QUEEN

今年は映画『ボヘミアン・ラプソディー』の大ヒットによりQUEENが再評価され、日本でもQUEENのリバイバル・ブームが起こりました。ちなみに私の中のQUEENブームは2005-2006年に勝手に旋風を巻き起こしまくっておりました。最初の同人誌『平成医療手技図譜 針モノ編』と『ねじ子のヒミツ手技 1st』の捨てカットを見ていただければわかるように、あの頃の私はQUEENに狂っておりました。フレディの最後のパートナー、ジム・ハットンによる書籍『フレディー・マーキュリーと私』を読んだこと、それを受けたドキュメンタリー『FREDDIE MERCURY Untold Story』を見たことが、当時の私のハートに火をつけたのです。CDアルバムもオリジナル・ソロ・アルバムもぜんぶ買いました。当時はYoutubeが発達していませんでしたから、MVやライブを見るためだけにDVDを買いあさりました。Paul Rodgersをボーカルに迎えた横浜アリーナ公演にも行きました。『手をとりあって』を日本語で合唱したときは、自分が古い物語の登場人物になれたような心持ちでした。「みんな、フレディの代わりに歌って!」と言いながら『Love Of My Life』を一人弾き語りするブライアンに涙しました。確かにあのとき、ブライアンの横にフレディが座っているのが見えました。フレディの魂は確かにあのとき、横浜アリーナにいた!絶対いた!ブライアンを「ダーリン」と呼ぶフレディが、あの優しく柔和な目でブライアンを見つめるフレディがいたもん!わたし見たもん!

しかし、映画『ボヘミアン・ラプソディー』の初報を聞いて「絶対見に行く~!」と思っていたこの私が、映画の内容を聞き日本でも大ヒットの報を受け、テレビでも特集されていくにつけ、だんだん陰鬱になってしまいました。そう、めんどくさいオタクである私は「映画を見たら絶対にフレディに関する解釈違いを起こす、そして憂鬱になってしまう」と、映画を見る前に気付いてしまったのです。

憂鬱がわかりきっているねじ子は、映画を見に行く気力が萎えてしまいました。あんなにQUEENが好きだったのに、ようやくブームになっているというのに、なかなか足が向きません。そんな私を見かねた大上先生が、わざわざ私を映画館まで連れ出してくれました。ありがとう大上先生。そして映画『ボヘミアン・ラプソディー』を見た私は、感動しながらもやはり解釈違いを起こしてしまったのです。

いや、前半は最高だったんだ。アートスクールの学生だったうだつの上がらないフレディ、その頃の彼女、ブライアン・メイとロジャー・テイラーのバンド”スマイル”との出会い、日本で先に火がついた人気、コンピュータがない時代の多重録音、公式のプロモーション・ビデオがまだ存在しない時代の「キラークイーン」公式映像が「Top of the Pops」(BBCの老舗音楽番組)出演時の口パク映像であること、「オペラ座の夜」での合唱とロジャーのひときわ高い声、長い曲をラジオでかけるための攻防、いつも違う女を連れているロジャー、着物や伊万里焼などフレディの日本趣味、フレディの快楽主義的な一面、愛猫家、すべてがそのままその通り。素晴らしい再現度。出っ歯で美声のフレディの役者さんの似せっぷりはもちろんのこと、ロジャーもブライアンもディーコンも、まじでそっくり。本人が出演しているのかと思ったもん。いい映像を見せてもらって本当に嬉しい。

でもね、後半の時系列のぐちゃぐちゃに私は耐えられんのよ。特にHIV感染を自覚する時期と、免疫不全症候群(AIDS)を発症する時期と、実際のコンサートの時系列が狂っていて、どうにも違和感を覚えてしまう。当時の私は医学生で、まだ未知で克服できていない病であったHIVとAIDSとその感染ルートについて勉強する必要があり、フレディの事例をその勉強にも役立てたから、感染と発症時期の時系列にひどく敏感なのだ。

物語のクライマックスに使われるコンサート・LIVE AIDは確かにQUEENの健在ぶりをアピールする輝かしいコンサートだった。もう終わった70年代の古いバンドと評されていたQUEENが息を吹き返す、歴史的なライブだった。だけど、あのときまだフレディはHIV感染を知らなかったはずだ。LIVE AIDは1985/07/13、フレディがHIVの感染結果を知ったのは1987年のはず。時系列がおかしい。あそこで彼の病気をもってバンドが一致団結する描写は、あまりふさわしくないと私は思う。病気なんかまったく関係なく、バラバラになりかけたバンドが一致団結した瞬間だからLIVE AIDは素晴らしいのだ。フレディの歌唱力とメンバーの高い演奏力と楽曲の持つ圧倒的な普遍性をもって、QUEENはLIVE AIDの観客の心を鷲掴みにした。完全なる実力主義であり、そこがいいと私は思っている。ちなみにフレディの病気を受けてバンドが一致団結するのは最後のアルバム『Innuendo』の1991年あたりである。もちろんその頃の、だんだん歌が歌えなくなり痩せ細って衰えていく、それでも病気を公表できないフレディをみんなで支えるエピソードもすごく好きだ。

そもそもさあ!フレディはいつだってバンドの緩衝材だったの!フレディはいつも、音楽的対立を繰り返すブライアンとロジャーの間を取り持っていたはずだよ!「フレディがバンドのメンバーと喧嘩しているの見たことない」ってコメントもあったはずだよ!一時期のQUEENの活動休止は、ブライアンとロジャーの衝突が主な要因だったはず!当時の私は雑誌でそう読んだ!QUEENが休止したために、仕方なくフレディはその間だけソロ活動をやってたはず!それなのに、あの映画だとまるでフレディが自分の我儘でソロをやりたがり、そのせいでバンドが凋落したみたいじゃないか!違う!フレディはそんな子じゃない!決して解散危機の引き金を引くメンバーではなかったはずだ!「おい、お前が何を知っているんだ?」って感じだけど、私の解釈では、フレディはそうじゃないの!!

そして、社会について。フレディのHIVカミングアウトは死のほんの数日前であったし、フレディが自身のセクシュアリティを世間に公表することは死に至るまでなかった。そういう時代だった。当時「QUEENが好き」と言うと、女性ファンはともかく、男性ファンはわりとマジで「え?おまえホモなの?」と周囲から言われたりもした。ゲイ文化に(比較的)寛容な日本でさえ、そうだった。当時のAIDSは原因不明の死に至る恐怖の病気であり、無知による偏見がまん延していた。HIVがようやく分離されたのが1983年であり、LIVE AIDの2年前である。先進国でHIVが広がり始めていたこの頃、AIDS発症者にゲイや麻薬の常習者が多かったことから、ゲイ・コミュニティへの偏見と差別が強く世界を覆っていた。この映画はその社会風景のど真ん中にありながら、それをあまり描写しない。もちろん、それはそれでいい。偏見や差別や未知の病気に対する恐怖などすべてなかったことにして、主人公の周辺に優しく理解ある世界を築き、主人公を大きな愛で包み込む手法はフィクションにおいて多用されている。それはそれで自由だ。でも実際は、ものすごい大きな偏見と恐怖が当時のHIVと免疫不全とゲイの世界には吹き荒れていた。フレディはまさにその中にいて、命を落としてしまったんだよね。演出上の時系列の歪みがその不自然さに輪をかけているように感じて、どうしても私はもどかしく思ってしまう。

まぁ当時の社会のLGBTに対する差別と偏見と、HIVに関する無知と、それにまつわるフレディの苦悩を描写していたらきっと「重すぎる」。大衆映画としてこんなふうにヒットしないんだろう。わかるよ。めんどくさいオタクの解釈違いだって、わかってるよ。役者さんたちの本人再現ぶり、文句なく素晴らしい楽曲郡、映像の再現度、コンサート会場にいるかのような臨場感、LIVE AIDが再び開催されたかのようなカメラワークは最高だった。それでいいんだ。ありがとうブライアンとロジャー。

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さて、オリコンランキングという言葉すら知らない人間が増えている昨今、「俺コンランキング」というタイトルを続けるのもきつくなってきました。テーゼ自体が衰えると、アンチテーゼの文脈も意味をなさなくなっていくのは当然ですね。今年からはもう「楽曲ランキング」という簡素なタイトルにこっそり戻しました。

2019年はいまのところ新しいプリキュアのエンディング『パぺピプ☆ロマンチック』と新しい戦隊のエンディング『ケボーン!リュウソウジャー』が激しい首位闘いをする予定です。どちらも映像・ダンス込みでとても楽しい。楽曲そのものよりも、これから1年を通してどれだけ作品を面白く見続けることができるか。これからの1年を楽しみにしています。(2018.3.29)